向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
「…」
風が辺りを吹き抜けた
カーテンが揺れ
髪がなびくのを手で押さえた
「直也…」
直也の名を口にした女性は
まるであたしとは初対面のようだった
「母さん…」
だってさ…
あたしが知っていた直也のお母さんとは、ずっとずっと
かけ離れていたんだもん
痩けていた頬はさらに痩けて
細かった手首はさらに細くなって
顔についていた上品なシワは、一層深く彫り込まれていた
ああ
ねえ
人って数日でこんなに変わるものなのかな
何でだろ
人って
弱いな…
「老けたな」
直也はそれ以上中に入ろうとしなかった
お母さんとあたしたちとの間には
大きな壁が立ちふさがっているみたいだった
「もうババアとしか呼べない」
でも直也は
その壁を越えようともしない
「頑固ババア」
「はいはい」
悪口を軽くあしらうと、彼女は大きくため息をついた
「そんな嫌そうな顔してお見舞いなんてやめてちょうだい?
また悪化しそう」
彼女の顔はほほ笑んでいた
はたから見ていたらそれは可愛らしい冗談だとわかったのだけれど
直也にとっては
少々きつい言葉だったのかもしれない
「っ…」
拳を作って
強く握りしめて
ぶつけ先のないまま
直也は病院から出て行った
『なお…』
あたしはもう
追いかける気力も失せていた
それよりも…