向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
『幸子(さちこ)さん…』
あたしが呼ぶと、女性はあたしの方を向いてくれた
その笑顔は、本当に優しい
「私、あなたに名前教えたかしら…?」
『病室の前の札に…書いてあったんで』
「ああ、そうね」
あたしは
ズカズカと壁を越えて
幸子さんの目の前に立った
見下すつもりは毛頭なくても、ベッドに座ったままの彼女は自然とあたしの視界の下に入った
『びっくりしました』
「何を?」
『あなたが直也のお母さんだったなんて…ほんと、びっくりしました』
あたしが何を言いたかったのか、わかっていたような顔をされた
そして少し間を開けて、幸子さんは口を開いた
「私も…あなたが美咲さんだとは思わなかったわ」
『え?』