向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
直也がしばらくずっと歩くもんだから、あたしはせめて後ろ歩きはやめさせてと頼んだ
渋々直也はあたしを解放したものの、やっぱり腕を引っつかんだまま
やっぱり歩き続けた
『…どこ行くの?』
「んー」
横断歩道を渡り、並木道を進んでいく
ほどよく青く茂った草木が
コンクリートの世界を華やいでくれて
だから一層
あたしの前を歩く直也の背中が
とてもとても大切なものに思えてしまった
『どこ行くのか聞いてんじゃん』
「迷ってんだよ」
は?
『迷子?あんたこの町で何年暮らしてると思ってんだ。しかもいい歳して彼女連れ回して迷子ってお前ふざけんなよ、あたしもう帰りたいの、帰らせて、手ぇ離して』
「…」
黙り込むなっつーの
『直也意味わかんない、マジで意味わかんない、は、な、せ、さっさと帰らせろ』
「そんなに俺のこと嫌い?」
『っ…』
何だかドキッとした
直也はこっちを振り返らずにそう言ったんだけど
なんか
後ろからちょっと見える顔の輪郭が
あたしには寂しげに写ったんだ