向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
『…ごめんね』
あたしの顔、さっきまでほほ笑んでたのに
なんか
眉間にシワ寄ってる
「何が」
『勝手に怒って…』
「何が」
『いやだから…』
そういやぁ…何であたし怒ってたんだっけ?
『あ、嘘、何でもない』
「あっそう」
ちょっとぷぅって直也のほっぺが膨らんだ
かわいいなぁって
空いてる方の指で突っついてやろうかと思ったけど、どうせ不機嫌になるだろうからやめておいた
「…あのさ」
『ん?』
「母さん、何か言ってた?」
『何かって言われても…』
いろいろ言われすぎて覚えてない
『忘れた』
「…ふーん」
なんだ?
『何で聞いたの?』
「何でもない」
いや
そんなはずない
って思って、じっと直也の顔を見つめた
最初は鬱陶しそうに横目であたしを見ていたけど、徐々に唇を動かし始めた
「あのさ…あの…あれ聞いた?」
『…何の話かさっぱりなんですが』
「だから、ほら、その…」
急に直也が動揺し始めた
手のひらで口元を隠して、あたしのそばに寄ったり離れたり…
『何さ』
「だからほら、あれだよ、あの…」
『わからん』
「ちょ、あのさ、どうせ聞いたんだろお前、しらばっくれんな…」
『はっきりせえボケ』
「ボケとか言うな、だからほら、分かれって、あの…んと、あああもういい」
そう言って直也は、自分からの問いかけを投げ出した
『よくない、何の話なの?
言ってよ』
「…」
口をすぼめて
直也はあたしより後ろを歩き出した