All Arounder
第29章 I Will Wait Till You Come
バタン
玄関の扉を閉めると、ふいにため息が出た
「…馬鹿じゃねーの?」
後ろから突然そう聞こえ、黒羽は振り返った
そこにいたのは井上だった
「もう真夜中ですよ?」
「そう言うお前は、これからどこ行くんだ?」
「屋敷へ戻ります。少しの間でしたが…どうもありがとうございました」
黒羽はペコッと頭を下げた
「姫ちゃんはいいのか?」
「…」
井上の問い掛けに、黒羽は決まり悪そうな顔を見せた
「最初からお嬢様など…どうでもよかったですから…」
「そんじゃー泣くな」
井上の言葉に、黒羽は自分の頬を触れた
指先を見てみると、うっすら濡れている
「…何ですかね、これは…」
黒羽は一人、静かに笑った
「こんなもの…もういらないというのに…」
手の平全部で顔を掴むと
どうしようもない後悔の念に駆られた
「俺…は…」
「あんなやり方じゃなくても…もっといい方法があったろーが」
「無理ですよ…」
堅そうな男が、こうも脆く崩れるとは
考えたこともなかった
「俺がお嬢様に嫌われなきゃ…意味がないんですよ…」