All Arounder
第9章 A Couple of Night
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『おかあさんっ』
幼い少女は、だだっ広い部屋を駆けて行った
少女は、姫だった
「どうしたの、姫?」
姫は母親の服にしがみついた
『おそとでね、ちょーちょさんがいたの』
「お外に行ってたの?
だから泥んこなのね」
母親はその綺麗な手で、姫の顔についた泥を拭ってやった
「ほら、こんなに可愛い顔が出てきたわ」
『えへへっ、くしぐったいよぉ』
「くすぐったいでしょ?」
『くしぐったいっ、えへへ///』
母親は少し困った顔をしながら、優しく姫を抱きしめた
姫もその短い腕を精一杯伸ばし、母親の首に抱き着いた
『おかあさんっ、だいすきぃ///』
それから数週間後
母親は、昔からわずらっていた病気によって
息を引き取った
『おかあさん?』
冷たくなった母親の顔に触れた
まだ幼かった姫は、母親がただ眠っているだけだ
としか理解出来ずに
その晩は母親の体に寄り添って眠ってしまった