一万回目のプロポーズ
第3章 優しくすんな
「ってか…そう言う明奈は、俺のことを名字ですら呼んでくれねーよな」
『そう?』
「そう。いっつも
"あんた"とか"お前"とかだし」
『…名前で、呼ぼっか?』
傘の中は、雨がビニールを打つ音だけが鳴っていた
それが雑音だとは思わない
むしろ、心地好かった
「名前とか…照れんだろ!!」
ドンッと肩で小突かれ、あたしは傘の外にはみ出た
『ちょっ…ちょっと!!』
急いで俊司の元へ寄り、小突き返してやった
「わっ、何すんだよ!!
うらっ」
『あっ、やったな馬鹿』
何度かそれを繰り返したせいで、傘は意味を無くし
結局二人ともドボドボになってしまった