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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第1章 燐火~宿命の夜~

 突如としてスンチョンの脚が止まった。
 前方から灯りが近づいてくる。
 スンチョンは咄嗟に眼前の海棠(かいどう)の繁みに飛び込んだ。
「乳母、ねえ、教えて。一体、今、何が起こっているの?」
 梨花の懸命な問いかけに、今度はスンチョンもきちんと応えてくれた。
「お屋敷が賊に襲われたんでございますよ」
「賊!?」
 梨花の声が一瞬、高くなり、スンチョンは狼狽えてその口を大きな手のひらで覆った。
「大きな声を出してはなりません」
 案の定、思いがけない近さで、野太い男の声が響いた。
「おい、今、子どもの声が聞こえなかったか?」
「猫でも啼いたんじゃねえのか」
 男は少なくとも二人以上であるらしく、意外なほど近い場所に賊がいたことは梨花に大きな衝撃を与えた。

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