遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第4章 求め合う心
父の世話さえちゃんと見てくれる人がいれば、これで梨花は安心して働きに出られる。
梨花が働きにゆくと告げ、父に暇乞いをした時、父の眼にはまたも涙が浮かんでいた。
―海棠よ。父ちゃんのために、とんだ苦労をかけちまったなぁ。
物言えぬ父が滂沱の涙を流して、そう心で語りかけていた。
奉公先のお屋敷は、家からはかなり離れている。漢陽でもとりわけ賑やかな辺りに宏壮
な屋敷を構える商人尹(ユン)北斗(ボクドゥ)の邸宅だった。
尹北斗は漢陽でも屈指の大商人である。北斗と今一人、猛威徳という凄腕の商人がおり、この二人が都の経済を掌握している―とまでいわれていた。
この猛威徳こそが、実の父林成水を殺した憎き仇であることは既に梨花も知っている。
十六歳になった梨花の心に、今も猛威徳への憎しみがないといえば、嘘になる。
梨花が働きにゆくと告げ、父に暇乞いをした時、父の眼にはまたも涙が浮かんでいた。
―海棠よ。父ちゃんのために、とんだ苦労をかけちまったなぁ。
物言えぬ父が滂沱の涙を流して、そう心で語りかけていた。
奉公先のお屋敷は、家からはかなり離れている。漢陽でもとりわけ賑やかな辺りに宏壮
な屋敷を構える商人尹(ユン)北斗(ボクドゥ)の邸宅だった。
尹北斗は漢陽でも屈指の大商人である。北斗と今一人、猛威徳という凄腕の商人がおり、この二人が都の経済を掌握している―とまでいわれていた。
この猛威徳こそが、実の父林成水を殺した憎き仇であることは既に梨花も知っている。
十六歳になった梨花の心に、今も猛威徳への憎しみがないといえば、嘘になる。