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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第4章 求め合う心

 不思議だった。この優しい手の感触には確かに憶えがある。でも、一体、いつ、誰に頭を撫でられたときの記憶なのか。
―小花、小花。
 梨花の中に懐かしい声が響く。
 私を〝小花〟と呼んだひとは、たった一人。そう、今はもう生きているかどうかも判らない兄上さまだった。
―大きくなったら、私は兄上さまのお嫁さんになるの。
 兄が大好きだった幼い梨花は、それが口癖だったのだ。
 この方の手の温もりも優しい仕種も、どうしてか兄上さまに頭を撫でられたときの記憶を呼び起こす。
 遠い、遠い、無邪気で幸せだった頃の記憶。
「こんなことをして、余計に嫌われるかな?」
 梨花が完全に泣き止んだ頃合いを見計らったように、男が笑いを含んだ声で言った。

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