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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第4章 求め合う心

 土下座して深々と頭を垂れる梨花を、男は眼を丸くして見ていた。
「止めてくれ。さあ、立って」
 それでもなお手をつかえたままの梨花の手を取り、〝立ちなさい〟と優しく囁いた。
「謝るのは、こちらの方だ。いきなり度の過ぎた戯れ言を口にしたのは私なのだから。いや、実をいえば、この屋敷の息子だなどと素姓を明かしてしまえば、そなたが私に対して隔たりを置いてしまって、今までのように対等に接してくれなくなるのではと案じられてね。それゆえ、言わずもがなのことを口にしてしまった。許してくれ」
「私の方こそ、失礼をお許し下さいませ、若さま」
 怖いもの知らずの梨花でも、奉公先の若さまに向かってゆくほどの勇気はないし、それだけの分別はあった。

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