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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第4章 求め合う心

 南斗が冗談めかして嘆息している。
 梨花は思わず頬を緩めた。
「そんなことはありませんわ。若さまは十分魅力的ですもの。きっと、降るほどの求婚者を選り好みなさっているのでしょう」
 言ってしまってから、しまったと思っても、遅い。
「す、済みません。幾ら何でも、ご無礼が過ぎました。お許し下さい」
「いや、私はかえって嬉しいぞ。そなたにとって、私は魅力的なのだな」
「い、いえ。何もそういうことでは」
 思わず頬が熱くなる。
 口に出してしまった言葉は二度と取り返せないのだと、このときほど思い知ったことはなかった。
「それよりも、若さま。私、ずっとお礼を申し上げるのを忘れておりました」
 その場の妙な空気を変えたくて、梨花は場違いに大きな声を出した。

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