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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第4章 求め合う心

「礼? 私が何か礼を言われるようなことをしたのか」
 また、知らないふりをするつもりなのだろうか。
 梨花は頷き、南斗を真正面から見つめた。
「宗俊秀先生のことです」
 切り出してみても、南斗は何も応えない。ただ、白く煙る町を無表情に眺めているだけだ。
 雹は既に雨に変わり、あれほど鳴り渡っていた雷も止んでいた。地面を強く叩く雨脚が町を白っぽく見せている。いつもは人通りの多い往来には人の姿はなく、つい先刻、笠を被った旅人らしい男が急ぎ足で通り過ぎていっただけだった。
 まるで廃墟のような町を見つめている南斗の瞳は遠く、ここではないどこかを見つめているようでもある。その瞳は静かすぎて、何の感情も読み取れない。

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