遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第4章 求め合う心
こんな時、梨花は南斗という男が判らなくる。つい今し方まで剽軽な顔をしていたのに、もう物静かで沈着極まりない横顔を見せているのだ。
梨花は黙り込んだ南斗には頓着しなかった。あの日の礼だけは、是非きちんと言っておきたいと以前から考えていたのだ。
「もうふた月になりますが、若さまと初めて町でお逢いしたときのことです。あの日、若さまは財布を盗まれて困っていた私を助けて下さっただけでなく、あの後、私の家まで宗先生を寄越して下さいました。あのときのお礼をまだ申し上げていなかったので」
「さて、そんなことがあったかな」
南斗は肩を竦めた。
「何しろ昔のことだから、もう忘れてしまった。そなたがそのように申すのだから、宗先生に頼んだのかもしれない。頼んだ私の方がもう忘れているのだ。そなたもいつまでも些細なことを恩に着る必要はないのだよ」
梨花は黙り込んだ南斗には頓着しなかった。あの日の礼だけは、是非きちんと言っておきたいと以前から考えていたのだ。
「もうふた月になりますが、若さまと初めて町でお逢いしたときのことです。あの日、若さまは財布を盗まれて困っていた私を助けて下さっただけでなく、あの後、私の家まで宗先生を寄越して下さいました。あのときのお礼をまだ申し上げていなかったので」
「さて、そんなことがあったかな」
南斗は肩を竦めた。
「何しろ昔のことだから、もう忘れてしまった。そなたがそのように申すのだから、宗先生に頼んだのかもしれない。頼んだ私の方がもう忘れているのだ。そなたもいつまでも些細なことを恩に着る必要はないのだよ」