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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

「私は昔、人を殺めたことがあります。まだ、ほんの子どもでした。止むに止まれぬ事情があったとはいえ、そのことはいまだに拭いきれない罪として重く心にのしかかっています。若さま、人の生命を奪うというのは、そういうことなのです。若さまは、たとえ家僕であろうと、人ひとりの生命を奪って、平然となさっているような方ではありません。この先、きっと後悔なさることがあるでしょう。私は、若さまに私と同じような辛い想いをして頂きたくないのです」
 南斗が長い吐息をついた。
「そなたは随分と辛い想いをしてきたのだな。たった今、私のためだと言いながらもソヌを庇おうとした心優しきそなたが人を殺めたと言う。よほどのことがあったのだろう。可哀想に」
「遠い遠い昔の話です」
 梨花が淡く微笑むと、南斗が手にした刀を投げ捨てるように放った。乾いた音と共に、剣が再び床に落ちる。

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