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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

 どれほどの刻が経ったのか。
 やっと長すぎる口づけから解放された時、梨花の珊瑚色の唇はふっくらと腫れ、瞳は潤んでいた。
 その扇情的な表情は、もう無垢な少女のものではない。恋を知った大人の女の艶めかしさが零れんばかりに溢れていた。
 南斗の手が梨花の乱れた髪のひと房を掬い上げる。黒髪に唇を押し当てられると、何故か、梨花の身体全体に妖しい震えが駆け抜けた。
 十二月の夜に、上着なしでは、あまりにも寒い。取り乱している最中は、さして寒さなど感じはしなかったが、落ち着きを取り戻してくると、流石に身を切る寒さがこたえた。
 思わず身震いした梨花の肩にそっと南斗のチョゴリが掛けられた。樹木を彷彿とさせる南斗の香りがふわりと梨花を包み込む。
 まるで彼自身に抱きしめられているかのようだ。

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