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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第6章 兄の心

 父には毛織りの胴着、兄には帽子屋と筆屋でそれぞれ真新しい帽子と上等の筆を買ってきたのだ。
 まだまだ起き上がれない父は、相変わらず一日中、薄い夜具に横たわったままだ。父の上に毛織りの胴着を着せかけてやりながら、梨花は微笑んだ。
「どう? 少しは温かいでしょ。早く歩けるようになって、これを着て散歩に行かなきゃね」
 今回は隣家の女房にも土産を買ってきていたので、先にそれを持って挨拶を済ませていた。父の状態が好転したのは高価な薬のせいもあるには相違ないが、忘れてはならないのは、隣家の女房がちゃんと面倒を見てくれているからだ。
 幾ら良く効く薬でも、時間を守って三度三度服用しなければ効かないし、その薬を煎じるだけでも相当の手間がかかる。加えて、食事の世話、洗濯と世話になりっ放しであった。

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