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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第6章 兄の心

 それでも、時折、二人で示し合わせて、ひそかな逢瀬を続けていた。二人が待ち合わせるのは大抵、奥庭の崩れかけた物置小屋である。その場所は梨花が下男のソヌに乱暴されかけたことを考えれば、皮肉といえば皮肉ではあった。
 しかし、他に適当な場所がなく、何より、あそこは昼間でも誰も近づかず、夜ともなれば尚更であった。誰にも見つからずに逢うのには絶好の場所ともいえた。
「別に、何もついてやしないさ」
 ソルグクは仏頂面で呟くと、コホンとわざとらしい咳払いをした。
「その―、何というかだな、しばらく見ない間に妙に色っぽくなったなって思ってたんだ」
 兄の口から飛び出た予想もしない科白に、梨花はプッと吹き出した。
「やだ、何を言うかと思ったら」
「な、何だよ。これでも俺はお前の身を心配してるんだぞ」
 ソルグクは怖い顔で梨花を睨んだ。

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