テキストサイズ

遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第6章 兄の心

 今でも女中頭に頭ごなしに叱られたときは、物陰でひっそりと涙を流すことがある―、そんな余計な話をしても、かえって兄を心配させるだけだ。
 だから、梨花は笑顔で何もないと言っただけだった。
「―何か良いことでもあったのか?」
 ソルグクが上目遣いに見ている。勘の鋭い兄だから、梨花の身に何かが起こりつつあることを漠然と感じ取っているのだ。
 梨花は一瞬、躊躇ったが、意を決した。子どもの時分から、何でも兄には打ち明け相談してきたのだ。兄になら、南斗とのことを話しても大丈夫だろうという確信があった。
「ねえ、お兄ちゃん。もし、もしよ。私が嫁に行くって言ったら、どうする?」
 それとはなしに探りを入れてみると、案の定、ソルグクは眼を引き剥いた。
「お前、そんな話があるのか―、っていうか、男ができたのか!?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ