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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第6章 兄の心

「―相手の方は」
「相手の方だぁ? そんなにたいそうな奴なのか?」
 兄は訝しげに眉根を寄せている。
 梨花は頷いた。
「尹家の若さまなの」
 刹那、兄の双眸が梨花を射貫くように見開かれた。
「な、何だと? 尹家の若さまだと」
 ソルグクは絶句した。流石に、兄の妄想の範囲を著しく超えていたらしい。
 梨花は兄を刺激しないよう、慎重に言葉を選びながら話してゆく。
 三月前に町中で盗まれ巾着を取り戻してくれた男が、実は尹家の御曹子南斗であったこと、その事実は尹家に上がってから初めて知ったこと。
 口を開きかけた兄に対して、梨花は機先を制した。

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