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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第6章 兄の心

 ソルグクは先刻からずっと苛々と唇を舐めている。
 梨花との口論が気まずい雰囲気で終わってしまってから、既に一刻余りが過ぎていた。
 折角の滅多とない休みなのに、このまま終わってしまうのかと思うと、はやそれだけで、喧嘩の原因となった男―尹南斗が恨めしい。
 昼下がりの小さな家はしんと静まり、父の立てる寝息だけが規則正しく聞こえていた。
 梨花はどこかに出かけたのか、姿が見えない。もしかして、恋しい南斗のいる尹家の屋敷に早々と帰ってしまったのかもしれない。これまでの梨花なら、病気の父ソギョンを残して、予定を切り上げて帰ってゆくようなことはしないだろうが、何しろ、ソルグクは南斗のことで梨花を怒らせてしまっている。
 恋は人を変える。優しい梨花でも、恋が絡むと、どうなるかは判ったものではなかった。
 梨花のあの激し様では、心底から南斗に惚れているように見えた。今更、何をどう言おうと、手遅れなのかもしれない。

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