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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第6章 兄の心

 南斗は笑った。
「残念ながら、私には妹はいない。妹どころか、兄弟と呼べる存在は全くないんだよ。今の話は妹のいる友人から聞いた受け売りの話だ」
「そうなのですね」
 思いがけない南斗の〝妹〟の出現で、溢れ出るように湧いていた涙も知らぬ間に止んでいた。
「海棠」
 ふわりと身体ごと引き寄せられる。
 そのまま貪るように唇を塞がれ、呼吸すら奪われるような口づけは果てしなく続いた。
 ウッホン。
 奥から出てきた靴屋の主人が咳払いをしなければ、二人は永遠に唇を重ね続けていたかもしれない。
 我に返った時、梨花と南斗の前には、四十前後の小柄な主人が苦虫を噛み潰したような表情で立っていた。

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