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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第7章 哀しい現実

 後になって、この事件は盗賊などの犯行ではなく、実は時の右議政と組んだ悪徳商人猛威徳の仕業だという剣呑な噂がひそかに巷に流布した。そのときも、ソルグクは努めて噂を遮断した。知ろうとしなかった噂は、いつしか時が風化させ、ソルグクは思い出すこともなくなっていたのだ。
 だが、梨花は果たして、どうだっただろう。彼女から両親を初め、すべてを奪い去ったあの夜をそうそう忘れ去られるはずがない。
 それでも、あの娘は、一度たりとも過去への未練をソルグクたちの前で見せず、明るくふるまった。昔を思い出して泣きそうになったこともあるだろうに、新しい場所で一生懸命に生きようとしてきたのだ。
 ソルグクは、梨花の辿った残酷すぎる過去を知ろうと思えば知ることができた。
 かすかな後悔が苦い塊となって湧き上がる。

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