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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第7章 哀しい現実

 そして、他ならぬ自分もあの可憐で優しい娘が十一年前に生き別れになったきりの妹とは知らずに恋に落ちてしまった。
 自分と妹をめぐる宿命の残酷さ、運命の皮肉がただただ恨めしい。さだめは自分たち兄妹をどこまで翻弄すれば気が済むのだろう。
 そういえば、と、南斗は今更ながらに思い出す。
 よくよく考えてみれば、思い当たることはあったのに、どうして今まで気づかなかったのか。
 ふた月前、宗俊秀の屋敷から帰る途中、南斗は急に雹に降られて筆屋の軒先で雨宿りをした。あの日、奇しくも海棠も同じ場所で雹を避けていた。
 軒下で立ち話をしていた海棠が俄に持病の癪を起こした。
―いつもはよく効く薬を持ち歩いているのですが、今日は生憎と忘れてしまったのです。その薬を飲めば、すぐに治まるので、大丈夫です。

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