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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第8章 終焉

 ふんわりとひろがったチマの裾に一匹の白い蝶が大胆に刺繍されていて、さながら香月という艶やかな大輪の花に止まった蝶とでも言えようか。
 気に入った客しか取らないという香月だが、部屋を出る間際、南斗に艶な流し目をよこしてきた。
 しかし、南斗は、あのような女は好みではない。華のある美貌は流石に国王の心を動かすだけはあるに違いないが、冷ややかな美しさは妍がありすぎて情の強さが思いやれる。
 南斗自身は、やはり素直で心優しい娘がよほど良い。
 彼の脳裡に、一人の娘の顔が浮かぶ。海棠―いや、やはり梨花と呼んだ方が良いのだろう。一緒にいて安らげるのは、やはり、あのような娘だ。
 ソルグクから到底、受け入れ難い真実を突きつけられ、いっときは奈落の底に落ちた彼であった。

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