遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第8章 終焉
その後は自室に閉じこもり、誰にも逢おうせず食事すら摂らなかった。
毎朝の洗顔すら拒否して、海棠にも逢おうとはしなかった。大切な息子に良人の留守中に何かあってはと夫人はたいそう心配した。
しかし、父北斗の乗った船が港に着いたと知らせを受けたときには、既にいつもの彼らしい落ち着きと分別を取り戻していた。―少なくとも表面だけは。
今日も南斗は父と共に猛威徳の待つこの翠月楼へとやって来た。
威徳のぎょろっとした眼が南斗に向けられている。南斗が威徳を観察しているように、彼もまた南斗を品定めしているのは間違いない。偉大なる北斗商団の大行首の跡取りはどの程度の器量なのか見極めてやろうという魂胆は見え透いている。
「それにしても、尹どのが羨ましい限りですな」
威徳がひときわ高い声を上げた。
毎朝の洗顔すら拒否して、海棠にも逢おうとはしなかった。大切な息子に良人の留守中に何かあってはと夫人はたいそう心配した。
しかし、父北斗の乗った船が港に着いたと知らせを受けたときには、既にいつもの彼らしい落ち着きと分別を取り戻していた。―少なくとも表面だけは。
今日も南斗は父と共に猛威徳の待つこの翠月楼へとやって来た。
威徳のぎょろっとした眼が南斗に向けられている。南斗が威徳を観察しているように、彼もまた南斗を品定めしているのは間違いない。偉大なる北斗商団の大行首の跡取りはどの程度の器量なのか見極めてやろうという魂胆は見え透いている。
「それにしても、尹どのが羨ましい限りですな」
威徳がひときわ高い声を上げた。