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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第8章 終焉

「よろしいではありませんか。うちは倅一人だけで、淋しいものです。娘ばかりであれば、さぞかし華やかなことでしょう。私の方こそ、威徳どのが羨ましいくらいです」
 北斗は良いように調子を合わせているが、威徳の方も、北斗が本気でないのは万も承知
のはずだ。儲けのためには手段を選ばない極悪人とはいえ、仮にも六矣廛(ユギジヨン)(独占権を受け
、六つの国家需要品を販売する商店。御用商店)の大行首の一人であるのは北斗と変わらない。
 父には及ばないとはいえども、威徳の漢陽の経済に及ぼす影響もまた大きい。なかなかに侮れない奴で、ただ欲深で好色なだけの男ではないのだ。
 それにしても、よく動くあの舌を引っこ抜いてやりたい、いや、口を針と糸で縫ってやろうか。南斗が威徳の不気味に光る唇を眺めていた時、唐突に自分の名が耳に飛び込んできた。

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