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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第8章 終焉

「俺はもしかしたら、綺麗事を口にしているのかもしれない。若さまに真実を告げた時、俺の心の中に、お前の心を盗んでいった若さまへの嫉妬がなかったとは言えないからな」
 ソルグクは低い声で笑うと、梨花を真正面から見た。
「親父を頼む。お前には結局、厄介事ばかり押しつけてゆくようで、申し訳ないと思ってる」
「水臭いことを言わないで。お父さんは、どれだけ刻が経っても、私のお父さんなんだから。この世でお父さんって呼べるのは、今のお父さんだけだもの」
 そう、既に顔も朧になってしまった実の父よりも、梨花にとってはソギョンこそが〝父〟であった。
「それを聞いて、安心して旅に出られるよ」
「また帰ってくるんでしょ」
 訊ねずにはいられなかった。
 ソルグクは優しい笑みを浮かべ、頷いた。梨花がよく知る兄の顔だった。

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