遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第2章 転生
ほどなく部屋に入ってきたのは、先刻の女ではなく、壮年の男だった。こちらは梨花の父よりは少し若そうだ。男の後に続いて、女も戻ってくると、梨花の枕許に片膝をついて座る。梨花の母のようにけして上品でも美しくはなかったけれど、柔和な面に浮かんだ控えめな笑みは、どこか乳母スンチョンを思い出させた。
「お嬢ちゃんは、どこから来たのかい? ここへ来るまでのことは憶えてるか」
いきなり問われ、梨花の脳裡にすべてが甦った。自分の眼の前で斬り捨てられたスンチョン、スンチョンの身体から溢れ、地面をしとどに濡らしていた鮮血。
小雨がぱらつく中、スンチョンを惨たらしく殺した男たちが手ににしていた松明の明かりが暗闇に燐火のように燃えていた。不吉なほど鮮やかに闇を照らしていた小さな焔は、あれはきっと、スンチョンの生命の火であったかもしれない。
「お嬢ちゃんは、どこから来たのかい? ここへ来るまでのことは憶えてるか」
いきなり問われ、梨花の脳裡にすべてが甦った。自分の眼の前で斬り捨てられたスンチョン、スンチョンの身体から溢れ、地面をしとどに濡らしていた鮮血。
小雨がぱらつく中、スンチョンを惨たらしく殺した男たちが手ににしていた松明の明かりが暗闇に燐火のように燃えていた。不吉なほど鮮やかに闇を照らしていた小さな焔は、あれはきっと、スンチョンの生命の火であったかもしれない。