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雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第3章 LessonⅢ 悪意ある噂

 気のせいか、彼は泣いている輝の方は見ず、敢えて正面を見つめて歩いている。しばらく二人は無言で並んで歩いた。
「風邪引きますよ」
 吉瀬がそっと背後からコートをかけてくれた。あまりに動転していたために、コートを着るということも忘れていた。
「ありがとう」
 消え入るような声で言うと、吉瀬が溜息混じりに言った。
「なかなかですね。今時の若い子たちは」
「本当、なかなかです」
 打つともなしに相槌を打つ。そんな輝に、吉瀬は穏やかな笑顔を向けた。もう、輝の涙は止まっていた。やはり、彼女がひっそりと泣いていたことをこの男はとうに知っていたのだろう。知っていて、知らないふりをしたのだ。

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