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第7章 芽生えた感情と嫉妬
「…なんで?」
「あいつは俺の声は必要としてない」
「…なんでそんなことがわかるの?」
「俺は元々、REAL AND GLAYでギターを弾いてたんだ。だけどボーカルが死んで、俺が代わりにボーカルを引き受けた。だけど拓哉は俺の声を受け入れてくれなかった。だから俺は脱退してデュランに入ったんだ」
「…」
「ま、あんたの気持ちもわからなくはないが、拓哉は音楽に命かけてるからな…早々うまくいかねぇよ」
そう言うと俺は、隙をついて女の手から携帯を奪った。
「消去、っと」
「あっ…」
画面から画像が消えた。
女は悔しそうな表情を浮かべる。
「…じゃあどうすればいいの…あのバンドにいる限り、坂本くんは私から遠ざかっていってしまう…」
さっきの強気な表情とは裏腹に、女の顔は泣きそうになっていた。
「…好きならあんたなりに気持ちをぶつけていけばいいさ…」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言った。
「マサ!」
後方から拓哉の声がする。
「…早く行け!見逃してやる」
「…っ」
女は戸惑いながらも、その場から反対側に走り出す。
「マサ!」
入れ違いに、拓哉が俺の肩を掴んだ。
「今の子っ…」
「ああ、安心しろ。データは消去した」
「でもリークされたらっ…」
「証拠がなきゃ、あんな素人の言うこと真に受けねぇよ。安心しろ」
「…」
拓哉は安堵の表情を浮かべた。
