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第7章 芽生えた感情と嫉妬
「…でもなんであそこに俺たちがいるってわかったんだろな…。マサが来ることは俺らしか知らなかったのに…」
「…」
…まさか、仲間の彼女が自分を陥れようとしてるなんて、思ってもみないだろうな…
というか…拓哉、
お前はまだユキを引きずってるのか?
ユキと同じ声をした卓也を好きになるなんて…
…どこまで俺を傷つけるんだよ…
俺はこんなにもお前のことをずっと、想い続けてるのに…
「すまない、さっきは軽率だった。俺も有名人だしな、気をつけるよ」
俺はサングラスをかけて、拓哉の肩をポンと叩いた。
「明日早いし、今日はもう帰るわ」
「…わかった」
「ああ、そうだ。ギタリストの彼に伝えといてくれ。
君のギターテクニックは、もう十分の域に達してる。でも、何か足りない部分がある。
自分でも気付いてるだろうが、
それは『心情』だ。
エモーショナルな部分が、ピッキングに反映されていない。もっと、自分の気持ちを、本当の自分を、ギターに歌わせろってね」
「わかった、伝えとくよ」
フッと拓哉が笑う。
暗くて表情はあまりわからないが、どんな顔してるかは想像できる。
拓哉は音楽のこととなると、気を許す。
俺がしつこくアプローチしても本気で拒否らないのは、俺も音楽に対して情熱を持ってるからだ。
いっそのこと、嫌いになってくれれば楽なのにな…
「…じゃあな」
俺は哀しく微笑すると、きびすを返した。
