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雨の中の君へ。

第3章 彼。

会社から出てタクシーを捕まえる。

編集の仕事は体力勝負だ。作家さんとの交渉、企画、宣伝、計算、デスクワーク…印刷、製本、販売、一冊の本になるまでに、多くの人が関わる。最近はスピード勝負だから、うかうかしてると他社に出し抜かれてしまう。時間も神経も使う仕事だ。

作家が作品を作るのを子どもを産み出す感覚ならば、私は助産師なのかなぁ…最近そう思うようになった。

本が好きで、そして畑山が好きで入ったこの世界。華やかで眩しい舞台の陰に、私の仕事はある。

畑山竜二の新作は多くの出版会社がぜひ我が社でと、熱望していたものである。うちの会社が手がけることになり、地団駄を踏んでいる人は多いだろう。

《トモヤ、昨日はごめんね。今日早く終われそうだから、家行って良い?》

トモヤにメールした。彼は私が忙しいことを知っている。トモヤとは地元の高校が一緒で昔から友達だった。トモヤは東京に進学し、IT関係の企業に就職している。東京に出てきたばかりの私に親切にしてくれた。そして仲良く飲んでるうちに告白され付き合い始めた。彼は私のことが昔から好きだったらしく…。

ブーン…トモヤと画面に出る。

《オッケー♪じゃあ料理作っておくね♪》

チクン…さすがに胸が痛んだ。

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