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EROSMAN

第9章 魔女と呼ばれた少女

ゲイルは一歩一歩、近づいてくる。
「・・・哀れなもんだな。あんなガキに付き合ったばかりに。あいつ、ワガママだったろ・・?すっかり大人になってよ。まあ、まだまだガキだけどな。」
サキエルは一瞬嫌な予感がした。
「ま・・まさか、アナタはあの子の・・!?」
ゲイルはつまらなそうに笑い、「そうだよ。俺があの子の父親、黒猫 幻骸 くろねこ げんがいだ。だから俺はあいつの事を全て知ってる。あいつはな・・・本当は魔女なんかじゃねえんだ。」
サキエルは黙って話を聞く。
幻骸は続ける。
「アイツは生まれた時から脳が死んじまってたんだ。なるやつは本当にまれで、嫌な意味で奇跡らしい。俺と妻で、アイツを、香織を助けてくれ、と願った。するとな、俺達の前にある組織が現れた。その組織はドリーム・キスとはまた違う組織だった。その組織のお偉いさんが香織に脳を移植してやる、と言ってきた。その代わり条件として、軍人だった俺をドリーム・キスで殺し屋として働かせる、という条件だった。俺はドリーム・キスがどんな組織か分からなかったし、一刻も早く香織の笑顔が見たかった。だから俺は承諾しちまった。
数日後、香織は怪物になっていた。香織を入院させていた病院は見る影もなくなっていた。そして、見舞いに行っていた妻も・・・。」
そこで幻骸は、喋らなくなった。
「・・泣いているんですか?」
幻骸は、「ちょっと黙っててくれ。」と言った。
しばらくの沈黙。今なら幻骸を倒す事が出来る、と思ったサキエルだったが、もう、そんな事はどうでもよかった。
「・・アナタがただの殺しが好きな人ではないのは分かりましたが、やってきた事は許しておけません。そして、アナタは香織さんを撃ってしまったんですよ!」
「・・あれは麻酔銃だ。」
幻骸は言った。
「そもそも、俺はこの作戦の途中で香織と逃げるつもりだった。」
サキエルは、「では何故昔アナタは香織さんを捨てたのですか!」
幻骸はライフルを真上に向けて撃った。
「・・自分の宝物を好意で捨てると思うか?どんな理由があろうと、あの子は俺の宝物なんだよ。お前には、分かるか?家族を目の前で手放さないといけない絶望感!俺は自分を・・そして組織の連中を呪ったよ。」
幻骸は、上を向き涙を流し続けた。

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