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紅蓮の月~ゆめや~

第6章 第二話【紅蓮の花】 二

 凛子は最愛の男の顔を見つめながら深く頷いた。静にも義経の妻にも、頼朝でさえついになし得なかった、たった一つのこと。それは、義経の最後、いまわの際まで彼の傍に付き従うことであった。
 今の凛子にはそれが許されている。これほど愛しく思う男と共に黄泉路に旅立てることが叶うのだ。それは何と幸せなことだろう。
 義経もまた凛子の眼を見ながら頷いた。
 障子戸をきっちりと閉めると、二人は部屋の中で向かい合って座った。
「真に良いのだな」
 義経に訊ねられ、凛子はもう一度頷いた。
 義経がふと思い出したように言った。
「先刻、そなたに申そうとしたことだが―」
「はい?」
 訝しげな表情の凛子を見て、義経が薄く微笑した。

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