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紅蓮の月~ゆめや~

第8章 第三話 【流星】 プロローグ

 確か、あの店は古着屋を生業(なりわい)としていたのではなかったろうか。子どもにあまり縁のある店ではなく、美都も興味本位で一度だけ覗いてみたにすぎない。もう二十年も前の、しかも子どもの記憶だから当てにはならないけれど、朧げにあの店のことも憶えている。
 店の女主人は年の頃は三十代くらい、こんな片田舎の小さな町には似合わないほどの美人だったような気がする。たまに表に出てきた姿を見かけたが、いつも紫色の着物をきっちりと着こなし、艶(つや)やかな長い黒髪を後頭部で一つにまとめていた。
 美都と眼が合っても、うっすらと微笑むだけで話をしたことはなかった。それでも良い、あの頃を知っている人がまだこの町にいる―、美都はそう思うと矢も楯もたまらず店のガラス戸を開けていた。ガラスの引き戸を開けた時、美都の記憶の底からふいにぽっかりと店の名が浮かび上がった。

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