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紅蓮の月~ゆめや~

第8章 第三話 【流星】 プロローグ

「ゆめや」
 唐突に思い出したこの店の名を呟いたその時、透き通った心地よい声が響いた。
「よくうちの店の名前を憶えていて下さったこと」
 美都はその声に誘われるように顔を上げた。反射的に振り向いたその眼に映じたのは、一人の美しい女性だった。紫地の着物に錆朱色の帯をきりりと閉め、艶やかな髪を一つにまとめている。
―まさか、二十年前にこの店にいたあの女(ひと)? 美都の身体中の肌が粟立った。寒い季節でもないのに、悪寒を感じたように思えた。
「あの―」
 そのことを問おうとしたけれど、怖くて訊けなかった。美都は混乱状態の頭で必死に考えた。

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