紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 二
当時、良人が妻の家で夜を過ごした翌朝には後朝(きぬき゜ぬ)の文といって、尽きぬ名残を惜しむ歌を詠み文と共に届けるのが慣わしであり礼儀でもあった。康光もまた、久しぶりに持つ妻との逢瀬に、妻の気を煩わせるようなことは告げなかったに相違ない。ゆえに、恐らく康光はその歌と共に兼家の心遣いを女房に文で知らせてきたのだろう。
「それにしても、お方様。問題はその後にございます」
女房が身を乗り出す。その拍子に美耶子の髪を梳る手に力が入り、美耶子は髪を強く後ろに引っ張られることになった。
「痛ッ」
少々引きつった鏡の中の自分の顔を見ながら思わず小さな声を洩らすと、女房が狼狽えた。
「申し訳ございませぬ」
「それにしても、お方様。問題はその後にございます」
女房が身を乗り出す。その拍子に美耶子の髪を梳る手に力が入り、美耶子は髪を強く後ろに引っ張られることになった。
「痛ッ」
少々引きつった鏡の中の自分の顔を見ながら思わず小さな声を洩らすと、女房が狼狽えた。
「申し訳ございませぬ」