紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 二
触れなば落ちん風情の女で、存在そのものが男を誘うような色香に満ちた女なのかもしれない。虫も殺さぬ風情でよよと兼家の胸に取り縋りながら、縋れば縋るほど男が自分に溺れてゆくのを存外に醒めた眼で見つめているのかもしれない。
―一体、どんな手練手管で殿を陥落させたのか―、したたかな女。
そこまで考えた時、美耶子は愕然とした。
なにゆえ、自分はそんな馬鹿げたことを考えるのだろう。美耶子は町小路の女を見たこともない。ゆえに、彼(か)の女がいかなる者かさえ知らないのだ。その全く面識のない他人をここまで憎悪し、悪し様に罵るとは、これまでの美耶子ならば考えられないことである。
―一体、どんな手練手管で殿を陥落させたのか―、したたかな女。
そこまで考えた時、美耶子は愕然とした。
なにゆえ、自分はそんな馬鹿げたことを考えるのだろう。美耶子は町小路の女を見たこともない。ゆえに、彼(か)の女がいかなる者かさえ知らないのだ。その全く面識のない他人をここまで憎悪し、悪し様に罵るとは、これまでの美耶子ならば考えられないことである。