
紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 二
美耶子の脳裡にふと哀れな蜻蛉(かげろう)の話が浮かんだ。蜻蛉は燃え盛る焔の中に自ら飛び込んでゆくという。赤々と燃える紅蓮の焔の鮮やかさに魅せられて、自分から焔の中へと身を投ずるのだ。
考えてみれば、今の美耶子は蜻蛉にも似ている。愛欲の焔に身を投ずれば、その身ごと焔に灼かれてしまうことが判っていながら、自ら焔の中へと入ってゆこうとしている。すべてを承知しながらも美耶子が我が身を止められないのは―。
兼家を愛しているからだ。
兼家という男を愛してしまったからだ。
兼家を取り巻くあまたの女たちの中の一人でありながら、兼家を独占したいと強く願わずにはおれない。そのためにならば、憎しみの焔を燃やし続ける夜叉にもなれる。我が身の中にある醜い感情は、美耶子が女として生まれたがゆえに持つ業(ごう)であった。
考えてみれば、今の美耶子は蜻蛉にも似ている。愛欲の焔に身を投ずれば、その身ごと焔に灼かれてしまうことが判っていながら、自ら焔の中へと入ってゆこうとしている。すべてを承知しながらも美耶子が我が身を止められないのは―。
兼家を愛しているからだ。
兼家という男を愛してしまったからだ。
兼家を取り巻くあまたの女たちの中の一人でありながら、兼家を独占したいと強く願わずにはおれない。そのためにならば、憎しみの焔を燃やし続ける夜叉にもなれる。我が身の中にある醜い感情は、美耶子が女として生まれたがゆえに持つ業(ごう)であった。
