テキストサイズ

紅蓮の月~ゆめや~

第10章 第三話 【流星】 二

 兼家は今度こそ本当に愛想を尽かしたらしい。喧嘩をした夜を境にふっつりと訪れが絶えた。二十日どころか、今回はひと月が経っても、一向に訪れる気配はない。このまま別れることになるのかもしれなかった。あれほどの大喧嘩をしたのだ、それもまた無理からぬことにも思え、美耶子の中には次第に諦めがひろがっていった。
 兼家に見切りをつけられれば、他人は分不相応の男を選ぶからよと嘲笑(あざわら)うだろう。宮廷人にとって他人の醜聞は何よりの話の種だ。が、言いたい者には言わせておけば良い。世間には人々の好奇心をそそるネタは尽きない。最初は物珍しさに口さがないことをあれこれと取り沙汰する連中も、刻(とき)が経てば興味を失う。それまでの辛抱だった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ