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紅蓮の月~ゆめや~

第10章 第三話 【流星】 二

 そんな時、美耶子は自分の体調の変化に気づいた。月のものが大幅に遅れていた。最初は不安定な気候とここ最近の著しい環境のうつろいによる一時的なものかと思ったけれど、どうやら、それだけではないらしい。その中に吐き気も始まった。乳母が我が仕える主のそんな異変を見逃すはずもない。
「姫様、もしやご懐妊ではございませぬか」
 そのひと言で、ほどなく薬師の診立てによって美耶子の懐妊が明らかになった。
 兼家の子を身ごもった―、果たして、兼家との別離を覚悟しているこの時、懐妊を歓ぶべきかどうかは疑問であった。
 何と言っても、腹の子の父親である。兼家にこのことを知らせようかとも思ったが、懐妊を理由に男の心を取り戻したいなどという下心を持っているのではと思われるのが嫌で、つい知らせずに過ごしてしまった。

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