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紅蓮の月~ゆめや~

第3章 紅蓮の月 二

―信長は油断のならぬ小倅よ。あれはただのうつけではない。何かどでかいことをやりおる相じゃ。
 道三はまた信長という男を買ってもいた。彼の中にある戦国武将としての類稀なる器量を誰よりも早く的確に見抜いていた。だからこそ、信長の存在が脅威となる前に、抹殺してしまおうと目論み、帰蝶を美しき刺客として信長の傍に送り込んだのだ。
「帰蝶は―乱世は嫌いにございます。人と人が殺し合う戦(いくさ)はいやにござります」
 帰蝶の口から素直な呟きが落ちた。
 それは真実の想いだった。幼い時分から刺客としての教育を受けてきたけれど、本当は人を殺すのも、殺されるのを見るのも大嫌いなのだ。これまで帰蝶はあまたの人が戦の犠牲になるのを見てきた。その中には政略のために他国へ嫁いだ叔母や従姉もいた。
 もう、たくさんだ。大切な人、愛する人たちを失う哀しみは二度と味わいたくない。

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