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紅蓮の月~ゆめや~

第3章 紅蓮の月 二

 帰蝶は眼を瞠った。何の感情も読み取れぬと思っていた信長の瞳に今、明るい光が灯っていた。鷹を思わせる鋭い、けれど理知的な
光を帯びたその眼(まなこ)にいっそう強く帰蝶は魅了されずにはおれない。
 信長は不思議な男だ。この世のすべてを悟りきった顔を見せるかと思えば、癇性とも言えるほどの短気さも見せる。また、いかにも若き武将らしい果敢な勇猛さ、凛々しさをも持つ。
 信長はある意味、自信過剰なほどの傲岸不遜な男ではある。しかし、群雄割拠するこの戦国の世に抜きん出るには、これほどの強烈な個性と確固たる自信がなければならないのかもしれない。
 確かに、信長という男は並ではない。
 近い中に信長はうつけの仮面を取り、その本性を現すだろう。そして、若鷹のようにこの戦国の世に羽ばたき、激動の時代を嵐のように駆け抜けてゆくに相違ない。

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