紅蓮の月~ゆめや~
第3章 紅蓮の月 二
その辿り着く先に待ち受けるものが何か―、今はまだ判らない。しかし、その信長の傍で彼を支え、同じ夢を見ていこうと帰蝶は心に誓った。
―父上、帰蝶はマムシの娘であることよりも、鷹の妻となることを選び、生きて参りとうございます。
帰蝶はそっと父に呼びかけた。
これ以降、帰蝶は呼び名を濃姫と変えた。それは、斉藤家の娘であることを棄て、織田の女として生きてゆこうとする彼女なりの決意の表れでもあった。
果たして、これから約三十年後、信長が明智光秀に本能寺で討たれるその日まで、濃姫は織田信長の正室として良人を陰から支えた。信長の死後、濃姫の消息は杳として知れない。本能寺で信長と共に紅蓮の焔に包まれて果てたとも、一人生き延びて尼となり、信長の菩提を弔いながら天寿をまっとうしたとも伝えられる。
―父上、帰蝶はマムシの娘であることよりも、鷹の妻となることを選び、生きて参りとうございます。
帰蝶はそっと父に呼びかけた。
これ以降、帰蝶は呼び名を濃姫と変えた。それは、斉藤家の娘であることを棄て、織田の女として生きてゆこうとする彼女なりの決意の表れでもあった。
果たして、これから約三十年後、信長が明智光秀に本能寺で討たれるその日まで、濃姫は織田信長の正室として良人を陰から支えた。信長の死後、濃姫の消息は杳として知れない。本能寺で信長と共に紅蓮の焔に包まれて果てたとも、一人生き延びて尼となり、信長の菩提を弔いながら天寿をまっとうしたとも伝えられる。