紅蓮の月~ゆめや~
第5章 第二話【紅蓮の花】 プロローグ
「それは、自分が行きたいと思っている時代に行けるということですか」
少しでも早くここから出なければと思う一方で、花凛は女主人にそんな質問を投げかけていた。赤色の打ち掛けは依然として花凛の肩にふわりと掛けられたままだ。脱ごうと思っても、何故か意識と実際に手足を動かす動作がつながらず、まるで他人の身体を借りているようだ。花凛の意識が他人の肉体に移ってしまったかのような居心地の悪さがある。
女主人はゆるりと首をめぐらせた。
「いいえ、ここに来るお客様は行きたい時代を選ぶのではなく、あくまでも着物を選ぶのです。ですから、どの時代へ行くのかはお客様自身にも判らない―」
―この打ち掛けを脱ぐのよ、花凛。
花凛は自分自身に懸命に言い聞かせた。
だが、一向に手足が動かない。身体が思い通りにならない。その中に、女主人の背後にある巨大な時計の音が段々と大きくなってきた。
少しでも早くここから出なければと思う一方で、花凛は女主人にそんな質問を投げかけていた。赤色の打ち掛けは依然として花凛の肩にふわりと掛けられたままだ。脱ごうと思っても、何故か意識と実際に手足を動かす動作がつながらず、まるで他人の身体を借りているようだ。花凛の意識が他人の肉体に移ってしまったかのような居心地の悪さがある。
女主人はゆるりと首をめぐらせた。
「いいえ、ここに来るお客様は行きたい時代を選ぶのではなく、あくまでも着物を選ぶのです。ですから、どの時代へ行くのかはお客様自身にも判らない―」
―この打ち掛けを脱ぐのよ、花凛。
花凛は自分自身に懸命に言い聞かせた。
だが、一向に手足が動かない。身体が思い通りにならない。その中に、女主人の背後にある巨大な時計の音が段々と大きくなってきた。