愛して、愛されて。
第9章 狂気の矛先
もう既に見えなくなった伊勢谷の車に、血の気が引いていく。
「くそっ!」
掌に痛いほどの力が入った。俺は、知っていた。伊勢谷がどんな目で奏太を見ていたか。
知っていたはずだったのに、なんで俺は……!
あの時手なんて振り払わず、傍にいればよかった。どんなに後悔してももう遅いのだ。
俺のせいで、奏太は伊勢谷に捕まった。
なにをされるのだろう。あの、忌々しい伊勢谷になにをされるのだろう。
考えれば考えるほどゾッとする様な寒気と、言い様のない怒りが沸き上がり、俺はとにかく走り出した。
ーーー俺じゃだめだ。俺、一人じゃ奏太を助けられない。
頭に浮かんだのはあの人で。奏太の、義兄さんで。
俺はただ無我夢中で走り出した。
もっと速く走れねえのかと、自分の無力さを悔やみながら。
速く、奏太を助けなければーーー。
頭の中には、それしかなかった。
恭side end