愛して、愛されて。
第10章 快感と恐怖
あれ?そう言えば俺、さっきまで保健室にいた気がする。
恭に……嫌われて、悲しくて保健室で1日寝ていたんだっけ。
そして、伊勢谷先生がきて
『家まで送っていく』って言われた。
そうだ。思い出した。俺は伊勢谷先生の車で家まで送ってもらったんだ。
それなのに、どうしてこんなことになってる?
なんで、こんな……。そこまで考えて、息を呑んだ。
まさか。いや、まさか過ぎるよ。意味が分からない。
あの人が俺を誘拐するわけない。だってなんのメリットもないはずだ。
『伊勢谷には、気をつけろよ。』
「っーー……」
恭の言葉が頭に浮かんだ時だった。ガチャリと音を立てて、閉まっていたドアが開いた。
そこから現れたのは、いつも通り口元に涼しい笑顔を張り付けた数学教師
ーーー伊勢谷だった。
「起きたのかい?村尾。」
優しく教えてくれるからと、女子から人気のある伊勢谷。いつもと何も変わらない声なのに、なぜだろう、ゾッとする様な響きに冷汗が吹き出そうだ。
ニコニコと笑いながらゆっくりと近づいてくる伊勢谷に、体の震えが止まらない。
口が上手く回らなかった。
「い、伊勢谷……先生?」
「ん?なに、村尾。」
返事と共に、目の前まで来た伊勢谷は俺の頬をスルリと撫でた。
ヒクっと喉がなり、咄嗟に顔をそむける。けれどあまり効果はなくて、伊勢谷は変わらず俺の頬を撫で続けた。