愛して、愛されて。
第1章 狂愛
「奏太(カナタ)。」
ビクリ。
体が反応した。
自分の名前を呼んだのが誰か。
分かってる。
分かってるからこそ、震えが止まらないんだ。
「な、んだよ。兄さん」
意を決して、震える体を後ろへと向けた。
綺麗な、人だ。
彼を目に入れる度、いつも思う。
そこには、同じ人間だとは思えないほど、
端正な顔立ちをした男が、扉に寄り掛かり、俺を見つめていた。
真っ黒で艶やかな髪は、サラサラと揺れていた。
耳までの短い長さの髪を、男は細長い指で、耳に掛けている。
村尾 秦(シン)。
それが男の名前で、俺の義兄だ。
半年前、母親が再婚し、俺には初めて“兄弟”ができた。
嬉しかった。
母さんと父さんが離婚してから、寂しかったから。
兄ができる。父ができる。
それが、素直に嬉しかった。