愛して、愛されて。
第1章 狂愛
だけど、
『奏太君、かわいいね』
現実はそう、甘くなかったんだ。
兄ができて、嬉しかった。
嬉しかったのに…―
「奏太。なに、ぼーっとして。」
クスクスと笑う声に、ハッとして顔を上げると、
いつの間に近づいたのか、目の前には兄さんの不敵な笑み。
妖艶で色っぽく笑う兄さんは、俺の頬を親指でスリスリと撫でた。
その行為に、ゾクリと悪寒が走った。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
冷や汗が、ぶわりと湧き出た気がした。
目を泳がすフリをして、兄さんの後ろに目を向ける。
ドアは、開いてる。
―――逃げられる。
今なら、きっと。
…スルリ。
だけど、兄さんの指が、俺の希望の邪魔をした。
『逃げられるわけ、ないだろ?』
その親指から、そんな言葉が伝った気がする。
目を細め笑う兄さんに、ガタガタと震え出す体。
「奏太、震えてんね。」
「…っ、ちげぇっ!」
くそっ。
なんでこんな時に、母さんがいないんだ。
なんで今に限ってこの家に、俺達しかいないんだよ。
母さんの買い物に付き合わなかったことを、今になって激しく後悔した。
でも、もう遅い。